AURA~魔竜院光牙最後の闘い~
AURA~魔竜院光牙最後の闘い~

↑Blu-ray。


AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

↑これは原作。

公式サイトはこちら



『AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~』は、ガガガ文庫から発刊されているライトノベルです。田中ロミオの小説としては恐らく最高傑作なのですが、これがまさかの映画化されました。
なお、読み方は「アウラ」です。「オーラ」って言って、チケット売りのお姉さんに訂正されました。よくよく見たら、原作の表紙にも小さく書いてあるんですね。まあ、確かにあの主人公なら、英語読みじゃなくてドイツ語読みが正しいでしょう。

閑話休題、「どう見ても爆死」「ファンなら観に行くと思って足元見やがったな」などの思いを抱きつつ、先日公開直後に劇場へと足を運びました。が、なんとこれが大当たりだったんですよ。冗談じゃなく。驚くべき事に。

ええ、原作ファンなら勿論、原作者のアクの方向性を好んでいる人間なら、迷わず観に行くべきです。札幌の映画館は何をトチ狂ったか一日四回とか上映してくれていますが、観に行ったときもガラガラで、早晩打ち切りは目に見えています。
あなたがあとから評判を聞いて後悔したくなければ、すぐに劇場に行きましょう。少なくとも、私もあと一度は確実に観に行く予定です。

もう結論は書いたような物ですが、いつものフォーマットに従って感想を先に明記します。


・原作からジャンル必然的な要素の取捨選択を行い、80分映画として綺麗にまとめた傑作。ただし、原作未読者にどう受け止められるかは解らない。


では、各論です。
原作の魅力は何といってもスクールカーストを題材とした軽妙でヘビーなシナリオ回しと、文章の巧みさです。しかし、これはそのまま映像作品に落とすには、非常に厳しくなります。まず、主人公の立ち位置がエアリーダー(己の心を隠し、普通たらんと潜伏している)なため、原文の大半は内面描写です。また、映像の破壊力という物を考えれば、テーマ自体が陰惨になりすぎてしまいます。かと言って、ギャグ調にしてはぶち壊しと言う事は、多数が同意してくれるでしょう。

そこでスタッフが選んだのが、「ボーイ・ミーツ・ガール」の映画として再編成する、と言う方法でした。
え!?と思った方も多いでしょうが、これが実に上手く行っています。勿論あの原作ですから、ラブラブな描写などほとんどありません。心を殺して社会と折り合いを付けようとしている少年と、同じく心を殺して全ては無価値だと言い聞かせている少女の、痛々しい交感の描写が心に刺さるのです。

そして、終盤直前の山場を、主人公の叫び「どうしてもっと素直に助けたいって、思わせてくれないんだよ」に持って来るという演出で、この改変というか映画への最適化は、最高潮を迎えます。このシーンの原作から改変された部分(シチュエーションの意味がかなり変わっています)は実に上手く、驚くほど(これ低予算映画ですよね?)しっかりしている画面構成や背景と相まって、見事な効果を上げています。


それ以外にも改変点はいくつかあるのですが、パンフレット(1500円もしましたが、買いましたよ!それくらいおふせしてやりますよ!Blu-rayとか出て欲しいし!)で何を狙ったかが明記されており、そしてそれは正に映画を観たときの印象通り。スタッフの原作理解と力量に、敬意を表したいと思います。

例えば、子鳩さんは一目観た瞬間「反則だろ!?」と叫びたくなるほど可愛いのですが、原作どおりではありません。低身長・ツインテール・ワンポイントと言う要素ブチ込みをしている上に、動きがちょこまかと異常に愛らしく、つまりは画面映えする形に仕上がっているのです。何だ改編かと思われる方もいるかもしれませんが、殺伐としていく教室の中で彼女だけがアニメ的癒しスタイルを崩さない事が原作通りの効果を上げ(ちなみに、演技指導もそうなっているそうです)原作とは違った方法論で、優れた演出を成し遂げています。

さらに、「映像化された」事の利点と言って良い場面の数々は、メディアミックスのお手本と言っても良いレベル。別に、大仰な事を言っているのではありません。例えば、最初に主人公が家に帰ったときの母親の態度であったり、「探索」を行うヒロインに付き合っているシーンの居たたまれ無さだったり、あるいはストレートに「可愛いのに残念・って言うか近寄りたくない」ヒロインの姿だったりです。これらは間違いなく、文章では出し切れない(特性が違うという意味です)部分で、原作の諸々が心に刺さった人間なら、その痛みや圧迫感・緊張感を数倍にして再度味わうことができるでしょう。

何より、各人物の「動き」は本当に見事。低予算なので大きなアクションがあるわけではないのですが、前屈みに歩くヒロインや可愛らしく動く子鳩さん、時々芝居がかった動作を挟んでしまう主人公と言った丁寧な描写が、「これを映像で観られて良かった」と言う気持ちが自然にわき起こります。ここ一年で観た映画の中でも、人生の特等席(感想はこちら)と同率首位か、それ以上に面白かったと思います。


勿論、完全な作品などありませんから、不満点だってあります。
例えば、ラストの「最後の戦い」は、私は非常階段から屋上に向かう主人公の一人称視点を出してくれる物だと思っていました。(と言うか、読みながらそう言うシーンが浮んでいました)しかし、そこはオミットされて屋上に乗り込むところから始まってしまうので、彼の「最高に格好悪くて最高に格好良い」姿がアピール不足になっています。最初の邂逅シーンも、もう少し神秘的に見せて「だまし」を徹底して欲しかったですし、スタッフロール背景の露天商との会話は切って良かったと思います。あと、タイトルが重なるシーンは音楽を消した方が効果的だったんじゃないか、みたいな部分とか。あ、子鳩さんの出番が少ないのは、上記改編を貫徹するためなので必然です。血涙出そうになりますが。

しかし、それらは全くもって些細な事で、「原作の引き写しではない、原作の魅力を取捨選択して再構成した優れたメディアミックス映画」と言う評価には、些かの揺らぎもありません。と言うか、予算をかけながらひどい事になっていた、Q(感想はこちら)だの、テレビと映画の特性を考慮しなかったために非常に残念なできになったまどかマギカ劇場版(感想はこちら)だのに比べて、遙かに真摯かつ丁寧に作られています。

いや本当、劇場アニメラッシュも捨てたもんじゃありません。何より、順列組み合わせを網羅するかのごとく焼き畑農法が行われているラノベアニメ化連打の中で、こんな作品が混じっているとは思いませんでした。


……と、これだけベタ誉めしておいてなんなのですが、実は一点どうしても絶賛とは行かない部分があります。
それが、「原作未読者にどう見られるのか、正直解らない」という所です。個人的には、痛々しい不適合者(パンフで監督は「マイノリティ」と言っています)の物語として良くできていると思うのですが、何しろ原作が大好きなもので、それが一般的に受けるのか、そして原作の予備知識無しで楽しめるのかがどうにも読めないのです。
例えば、懸念材料としては、上で書いたような演出上のだましが不徹底なので、邂逅から反転(未知の女の子と出会って日常が壊れる、と言うラノベフォーマットが逆方向に作用する)への流れが掴みにくいんじゃないだろうかとか、スクールカーストの説明を全部取っ払っているので、ドリームソルジャー達の登場が唐突ではないか、と言った部分です。
こればかりはよく解らないので、未読の知人を引きずっていって再視聴するか、Blu-rayが出たら上映会でもやるかと思っているのですが、それでは遅いですしね。

と言うわけで、名前を聞いたことが有る人間には一応、原作を読んだ人間には問答無用でお薦めの作品です。いや本当、どうせダメだろうとか思いながら観に行って申し訳ありません!一人でも多くのファンが、興味を持って観に行ってくれれば幸いです。



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